犬の避妊手術後、痛みはいつまで続く?
避妊手術を終えて帰宅した子が、いつもと違う歩き方をしていたり、そわそわして落ち着かなかったりすると、どうしても心配になります。「痛がっているのではないか」「いつになったら元に戻るのか」というご質問は、当院でも実際に多くいただきます。
このページでは、研究で示されている痛みの経過と、ご自宅で実際にどのような一週間になるのかを、当院での経験も交えてご説明します。
このページでわかること
痛みが強いのは、手術当日から数日です
避妊手術を受けた犬の痛みを、術後72時間にわたって測定した研究があります(Hancock ら, 2005)。ビーグル16頭を、腹腔鏡で手術するグループと、お腹を開いて手術するグループに8頭ずつ分け、術後2時間・6時間・12時間・24時間・48時間・72時間の6つの時点で比較したものです。
痛みが強く出るのは手術当日から数日にかけてです。当院では、この時期を越えるところが大事だと考えて、手術当日にしっかりと鎮痛を行っています。
腹腔鏡と開腹では、痛みの「引き方」が違います
この研究で使われた痛みの指標は2つあります。ひとつは、様子や姿勢から痛みを点数化するスコア。もうひとつは、お腹をそっと押したときにどのくらいの強さまで平気でいられるか、という測定です。
- 痛みのスコアは、測定したすべての時点で開腹手術のほうが高いという結果でした。
- お腹を押したときの痛がりにくさは、術後72時間の時点だけ、両者の差がなくなりました。それ以外のすべての時点では腹腔鏡手術のほうが痛がりにくい結果でした。
言いかえると、開腹手術でも3日ほど経てば腹腔鏡手術に追いついてきますが、そこに至るまでの数日間は差がついたままということです。そしてこの数日間は、ちょうどご自宅で普段の生活に戻っていく時期と重なります。
同じ傾向が、ほかの研究でも報告されています
この差は、ひとつの研究だけの話ではありません。
- さまざまな犬種30頭を対象にした研究では、開腹手術のグループの痛みのスコアが、術後のすべての時点で高いという結果でした(Tavares ら, 2023)。
- 体重2.4〜31kgの34頭を対象にした研究では、腹腔鏡手術の痛みのスコアは開腹手術と同等かそれ以下でした(Davidson ら, 2004)。
傷の大きさそのものよりも、お腹の中で卵巣を強く引っ張らずに済むことが、この差につながっていると考えられています。
ただし、ここでご紹介した研究はいずれも16〜34頭という小規模なもので、すべての犬種や年齢にそのまま当てはまる数字ではありません。また、これらの研究では腹腔鏡手術のほうが手術時間は長くなっています(Hancock ら 2005 で平均55.7分 対 31.7分、Davidson ら 2004 で120分 対 69分)。いずれも20年ほど前の報告です。
なお、腹腔鏡下の避妊手術には習熟の段階があることがわかっています。犬618頭分の手術を解析した研究では、これから腹腔鏡を始める術者は、およそ80例を越えたあたりから術中の合併症が低い水準で安定すると報告されました(Pope・Knowles, 2014)。この研究全体での術中合併症は618頭中10頭(1.6%)です。当院は10年以上にわたって内視鏡手術に取り組んでおり、腹腔鏡下避妊手術についても、この80例という目安を大きく超える数を経験しています。同じ手術でも、術者がどれだけ経験を重ねているかによって結果が変わりうる、ということでもあります。
いつもの元気に戻るのはいつごろ?
痛みそのものよりも、「いつになったらいつも通りに戻るのか」のほうが気になる、という方は多いと思います。これを、犬に活動量計をつけて実際に測った研究があります(Culp ら, 2009)。
体重10kg未満の小型犬20頭を対象に、手術前24時間の活動量を100として、手術後48時間の活動量を比べたものです。
| 術式 | 術後48時間の活動量(手術前=100%) |
|---|---|
| 腹腔鏡手術 | 75% (低下は25%にとどまった) |
| 開腹手術 | 38% (62%低下した) |
手術から2日の時点で、腹腔鏡手術を受けた子はふだんの4分の3ほど動けていたのに対し、開腹手術ではふだんの4割弱でした。飼い主さんの印象ではなく装置で測った数字である、というところがこの研究の強みです。
ただし対象は10kg未満の小型犬20頭ですので、大型犬にそのまま当てはまるとは限りません。また活動量が戻ることと、傷が治りきることは別です。傷そのものの管理は、下記のとおり一週間を目安にお願いしています。
ご自宅での一週間
当院の腹腔鏡下避妊手術は、多くの場合その日のうちにご退院いただいています。おおよその流れは次のとおりです。
| 時期 | ご自宅での過ごし方 |
|---|---|
| 手術当日 | 食欲があるようならお食事をお出しいただいて構いません。ただし勢いよく食べるとお腹の動きが追いつかないことがあるので、ゆっくりあげてください。お散歩は当日でも構いませんが、翌日からでも問題ありません。 |
| 翌日〜数日 | 多くの子がふだんの様子に戻っていきます。傷口の消毒は必要ありません。 |
| 〜1週間 | 術後服を着せていただきます。エリザベスカラーもご用意していますが、不自由が大きいので当院では術後服をおすすめしています。ほとんどのサイズを病院に備えています。 |
| 1週間後 | ご来院いただき、傷の状態を確認して抜糸します。腹腔鏡手術では3箇所を縫合しています。 |
「痛そう」に見えるしぐさの多くは、傷の引きつれです
帰宅後にご連絡をいただく内容で最も多いのが、歩き方がいつもと違う、そわそわして落ち着かない、という二つです。
これらのほとんどは、強い痛みではなく、傷が引っ張られることによる違和感です。動いたときに皮膚が突っ張る感じを気にして、歩幅が変わったり、座り直しを繰り返したりします。多くはそのまま短時間で落ち着いていきますので、まずは静かに休める場所で様子をみてあげてください。
お腹に入れたガスによる違和感が出ることがあります
腹腔鏡手術では、お腹の中に手術をするための空間をつくるために炭酸ガスを入れます。人の医療では、このガスに関連した術後の痛みや違和感が以前から知られており、それを和らげる方法の研究も行われています(Tavares ら, 2023)。
このガスがごく少量、皮膚の下に入り込むことがあり、これを皮下気腫と呼びます。
人の腹腔鏡手術では脇のあたりに1〜2日違和感が残ることが知られていますが、動物では内股のあたりに出ることが多いというのが当院の経験です。触れると少しふかふかした感じがあることもあります。時間とともに体に吸収されて自然になくなりますので、それ自体でご心配はいりません。傷とは別の場所を気にしているようであれば、この可能性があります。
なお、手当てが必要になるほどの皮下気腫はまれです。先ほどの618頭の研究でも、術中の合併症として記録されたのは1頭(0.2%)でした(Pope・Knowles, 2014)。ここでご説明しているのは、それよりも軽い、自然に引いていく程度のものです。
痛み止めの考え方
当院では、痛みが最も強くなる手術当日にしっかりと鎮痛を行います。そのうえで、ご自宅で使っていただくお薬もお渡ししています。
お渡しする日数は一律ではありません。体格や手術の内容だけでなく、その子の性格によっても必要な量は変わります。じっとしていられる子と、痛みが引いた途端に走り回ってしまう子とでは、必要な備えが違うためです。退院時にご相談のうえで決めさせていただいています。
ご連絡いただきたい様子
次のような様子がみられる場合は、診療時間内にお電話をお願いします
- 明らかにぐったりしている、呼びかけへの反応が鈍い
- 翌日以降も食事をまったくとらない
- 傷口が赤く腫れている、じくじくしている、出血がある
- 術後服を外して傷を舐めてしまった
- 繰り返し嘔吐する
また、上のどれにも当てはまらないけれど何となく心配、という場合も遠慮なくお電話ください。当院で手術を受けられた患者さんについては、術後の経過のご相談はいつでもお受けしています。ご様子を伺って、お待ちいただいて大丈夫か、お連れいただいたほうがよいかをご案内します。
参考文献
- Hancock RB, et al. Veterinary Surgery. 2005;34(3):273-282.
- Davidson EB, et al. Veterinary Surgery. 2004;33(1):62-69.
- Culp WTN, et al. Veterinary Surgery. 2009;38(7):811-817.
- Pope JFA, Knowles TG. Veterinary Surgery. 2014;43(6):668-677.
- Tavares IT, et al. Veterinary Medicine and Science. 2023;9(3):1114-1123.
腹腔鏡下避妊手術についてのご相談・ご予約はこちらからお願いします。手術をご検討の場合は、まず診察にてご説明の機会をいただいています。
お電話でのお問い合わせ:06-6967-8668(診療時間 10:00〜12:30 / 16:30〜18:30、水曜休診)
あわせてご覧ください:腹腔鏡下避妊手術について / 術後の活動が落ちにくい / 小さな傷口